大阪高等裁判所 平成10年(ウ)883号 決定 1999年3月26日
主文
本件申立てを却下する。
理由
一 控訴人らの本件申立ての趣旨及び理由は別紙(一)ないし(三)のとおりであり、その要旨は、「(1)原判決別紙電話機器目録記載の電話機器類(以下「本件機器」という。)の売主が被控訴人であることを証明するため、控訴人ら宅を訪問したと思われる平山剛の住所を調査するためには、被控訴人と平山との契約書(<1>文書)が必要であり、被控訴人には民訴法二二〇条四号により右文書の提出義務がある、(2)本件機器に瑕疵があったことを証明するためには、本件機器の回路図並びに信号流れ図(<2>文書)が必要であり、右文書は民訴法二二〇条四号により(同号イないしハの除外事由に該当しない)被控訴人には提出義務がある、また、本件機器の故障等申告歴のもとになる控訴人由紀子が署名捺印した修理費内訳書並びに物品納品書兼受領書など(<3>文書)は、民訴法二二〇条三号及び四号(同号イないしハの除外事由に該当しない。)により被控訴人には右文書の提出義務がある。」というにあり、これに対して、被控訴人は、本件申立ては理由がないから却下を求める旨述べた。
本件申立てに対する被控訴人の意見の要旨は別紙(四)のとおりである。
二 よって検討するに、<1>文書は、被控訴人と第三者である平山剛との間の取次店に関する契約書であって、本件損害賠償請求訴訟には直接関係のない文書であるし、一件記録を精査しても、本件機器の控訴人西垣剛に対する売主が誰かについて判断するに際し、<1>文書が必要であるとは解されないから、その余の点につき判断するまでもなく控訴人らの本件文書提出命令の申立ては、その必要性の要件を欠き、理由がない。
三 次に、一件記録によれば、<2>文書は、本件機器を製造し、細部設計を行ったメーカーが本件機器を製造するために作成した文書であって、当該メーカーの外部の者には見せることを全く予定せずに作成された自己使用のための文書であり、実際にも、製品の販売等に付随して販売先その他第三者に提供、提示することはない文書であると認められるところ、本件訴訟手続においてこれらの回路図など<2>文書の提出義務を被控訴人が負うとすると、本件訴訟においては第三者である当該メーカーが持つノウハウなどの技術上の情報一切が明らかにされることになり、当該メーカーが著しく不利益を受けることが予想される。その意味において、<2>文書は、民訴法二二〇条四号ロの黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書に該当し、かつ、細部設計を行ったメーカーが本件機器を製造するために作成した文書であって、同号ハの専ら文書の所持者側(当該製造メーカー、被控訴人ないしその関連会社)の利用に供されるための文書に該当するものと解するのが相当であるから、控訴人らの<2>文書に関する申立ては認めることができない。
なお、控訴人らは、時間と費用をかけて本件機器を分析すれば<2>文書の記載内容は解明できるのであるから、<2>文書は技術的な秘密や営業秘密が記載されている文書には該当しないし、また、被控訴人は<2>文書を基に製品化された本件機器を広く販売しているのであるから、<2>文書は自己使用文書にも該当しない旨主張するが、手間暇をかければ記載内容を解明できるからといって、<2>文書が企業の秘密やノウハウが記載された文書にあたらないとはいえないし、<2>文書を基に製品化された完成品を被控訴人ないしその関連会社が販売しているからといって、被控訴人ないしその関連会社の製品販売等に付随してメーカー、被控訴人ないしその関連会社から販売先に提示するようなことを予定していない<2>文書が自己使用文書でないとまでは到底いえないから、この点に関する控訴人らの主張は理由がない。
四 既に被控訴人から提出されている乙第四、第五号証以外に、乙第八号証のもとになる<3>文書を被控訴人が所持していることについては、これを認めるに足る証拠がないから、これを被控訴人が所持していることを前提としてなされた<3>文書の文書提出の申立てはその余の点につき判断するまでもなく理由がない。
五 その他、一件記録を精査しても、本件申立てのいずれも理由があると認めることはできない。
以上のとおりで、本件申立ては理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
別紙(一)
文書提出命令の申立書
申立の内容
一、証すべき事実
(一)別紙電話機器目録記載の機器類(以下本件機器類という)の売主が被控訴人であること
(二)本件機器類の瑕疵の存在
二、文書の表示
(一)に関して、被控訴人と平山剛(以下平山という)との取次店に関する契約書
(二)に関して
<1>本件機器類(親機・子機・料金表示ユニット・留守番表示ユニット)の回路図並びに信号流れ図
<2>乙第八号証で示される本件機器類の故障等申告履歴のもとになる控訴人西垣由紀子(以下控訴人由紀子という)が署名・捺印した修理費内訳書並びに物品納品書兼受領書など
三、文書の所持者
前項(一)・(二)<1>・<2>はすべて被控訴人
四、文書提出義務の原因
(一)第二項(一)について
<1>民事訴訟法二二〇条四号による。
控訴人・被控訴人間において、本件機器類の売主について被控訴人かどうか争いとなっている。
本件機器類の販売を目的として、平成元年一〇月頃控訴人宅を訪問した者は、平山であると思われる。
平山は、控訴人由紀子に対し、本件機器類をどのように説明して販売したか、平山が被控訴人とどのような関係に立つかどうかは本件機器類の売主を特定するために非常に重要である。
控訴人らは被控訴人に対し、再三にわたり平山の所在について問い合わせしているがいまだに回答がない。
そのため、被控訴人が平山とおこなった取次店に関する契約書により、平成元年頃の平山の住所を確認し、現在の平山の所在を調査することとしたい。
そのために、右文書は必要である。
<2>被控訴人と平山との取次店に関する契約書は被控訴人と平山との関係で後日の証とするため作成されたものであり、被控訴人のみの利用に供するものとはいえず、専ら自己使用に供する文書ではない。
同法二二〇条四号(イ)乃至(ハ)の除外事由に該当しない。
(二)第二項(二)<1>について
<1>民事訴訟法二二〇条四号による。
控訴人・被控訴人間において、本件機器類の瑕疵の存在の有無が争いとなっている。
控訴人らが本件機器類の瑕疵を回路図並びに信号流れ図のないままに証明するためには、膨大な手間と時間、更に費用がかかり、現実には不可能に近い。
これに対し、被控訴人は、電気通信事業で独占的な地位を占めており、そのうえ右回路図等は、平成元年一〇月以前のものであり、現状では右回路図等が公開されても、被控訴人によっては損害を生じることはないと思われる。
<2>同法二二〇条四号(イ)乃至(ハ)の除外事由に該当しない。
(三)第二項(二)<2>について
<1>民事訴訟法二二〇条三号による。
被控訴人の故障履歴のもとになる文書は、控訴人らと被控訴人との本件機器類の修理契約に関し作成されたものであり、両者に法律関係が存在する。
<2>同法四号による。
控訴人と被控訴人との間には、本件機器類の瑕疵の存在について争いがある。
修理費内訳書並びに物品納品書兼受領書は、被控訴人が専ら自己使用に供する文書などではない。右文書らは同号(イ)乃至(ハ)の除外事由には該当しない。
電話機器目録
甲第一乃至四号証で示される「ハウディホームテレホンSX」
親電話機
子電話機
留守番ユニット
料金表示ユニット
別紙(二)
被控訴人の平成一〇年一一月二六日付意見書に対する反論
一、被控訴人は被控訴人と訴外平山剛(以下訴外平山という)との取次店契約書について
(一)被控訴人は右文書提出の必要が認められないとする。
被控訴人の根拠は、本件機器類の売主が誰であるかの争点については、控訴人らが訴外NTTリース株式会社(以下訴外NTTリースという)に対し、「売主」として別訴を提起していることを取り上げ右別訴と矛盾した主張は許されないとする。
(二)しかし、控訴人らが本件訴訟とは別途、訴外NTTリースに対し、本件機器類の「売主」としての責任を追及していることで、被控訴人に対し「売主」としての責任追求を免除したわけでもなく、放棄したものでないことは明らかである。
控訴人らが被控訴人を本件機器類の売主として責任を追求していることは平成一〇年七月一七日付控訴人らの準備書面記載の通りである。
(三)そのうえ、控訴人らは、被控訴人に対し、民法一〇〇条の外観主義(顕名主義)により被控訴人の責任を求めているのである。
被控訴人と取次店契約を交わした訴外平山が控訴人西垣由紀子(以下控訴人由紀子という)に対し、自己の身分や本件機器類の販売についてどのように説明したかは非常に重要なことである。
訴外平山は被控訴人の社員と名乗り、連絡先も被控訴人の日本橋支店であると表示しているのである(渡辺和郎証人調書一八・一九丁)
訴外NTTリースと包括委託契約をした被控訴人と取次店契約を交わした訴外平山が、被控訴人の社員と名乗り、本件機器類の販売をおこなっているのであり、訴外平山は、被控訴人の社員とのみ表示し、訴外NTTリースの代理人であることは一度も表示をしていないのである。
訴外平山が誰の代理人であるかを表示しているかが重要なのである。単なる書面の受け渡しをしている使者とは明らかに異なる。
訴外平山の証人尋問の必要性は非常に大きく、同人の所在を確認するためには被控訴人と訴外平山との取次店契約の提出の必要性は高い。
二、本件機器類の回路図並びに信号流れ図(以下回路図等という)について
(一)<1>被控訴人は、回路図等について民訴法二二〇条四号<ハ>の「自己使用文書」であると主張する。
<2>「自己使用文書」とは、所持者が文書に記載された情報を独占使用することを予定して作成され、所持者、作成者以外の第三者との関係において、事実証明に利用する予定なくして作成されたものをいうと解され、「自己使用文書」を提出命令の対象から除くその保護法益はプライバシー権と考えられている。
<3>民訴法二二〇条により、文書提出義務が一般義務化されたのは、当事者間の武器対等を図るためであること、「自己使用文書」とは単なる内部文書とは異なること、その保護法益は営業秘密ではなく、あくまでプライバシーであること、更に被控訴人も主張するように費用と時間(膨大なものであるが)をかけることによって本件機器類自体から回路関係、信号流れ図関係は解明できるものであり、また、被控訴人は右回路図等によって製品化された本件機器類を広く一般に販売して利益を得ているものであることからみて、回路図等は「自己使用文書」には該当しない。
(二)<1>更に、被控訴人は回路図等は民訴法二二〇条<ロ>の黙秘権の認められた技術、職業の秘密に関する文書に該当すると主張する。
<2>回路図等が民訴法二二〇条<ロ>に該当しないことは、被控訴人自身において主張しているとおり、本件機器類を調査、分析することによって回路図等の関係は証明できるということからも明らかである。それは結局、回路図等の内容が本件機器類を通じて一般に広められているのであり技術的な秘密、あるいは企業秘密が含まれているものではないからである。
ただ、本件機器類の調査、分析には膨大な費用と時間がかかること、更に、本件機器類を含め通信機器に関するメーカー、組織並びに施設などはすべてと言っていいほど被控訴人と直接、間接的にわたって取引関係があり、被控訴人に対する遠慮等から協力を得られない状況となっている。そのため、控訴人らの本件機器類自体だけからは本件機器類の瑕疵は証明できないのである。
回路図等は民訴法二二〇条四号<ロ>には該当しない。
(三)<1>また、被控訴人は回路図等について文書提出の必要性がないと主張する。
<2>本件機器類に片通話の現象が頻繁に生じたことについては、原判決自体も認めているのであるが、原判決はそれ以上に、その片通話現象が本件機器類の瑕疵に基づくとの事実を認めることができないと判断しているのである。
<3>更に、被控訴人は本件機器類に通話異常が生じていないことを主張するが、本件訴訟係属後の平成七年一月二三日、午前一一時頃に、控訴人宅のみに「発信に信号音なし、受信に呼出音なし」の状態が発生し、控訴人ら訴訟代理人が翌二四日午前一一時に被控訴人訴訟代理人に対し故障の申出をおこなったところ、被控訴人から局内部で故障が生じた、迷惑をかけたと連絡があり、その後復旧している。
更には、本件機器類をすべてセットした後の平成九年一〇月四日以降、通話不能状態が生じたことは、原審での控訴人らの平成九年一一月二七日付準備書面の通りである。
<4>控訴人らは本件機器類の瑕疵を証明するために、被控訴人とのつながりから名前を表に出せないという大手機器メーカーの技術者などにも事実上の協力を求めてきている。
しかし、回路図等がなければ膨大な手間、時間、費用がかかるため、本件機器類の調査、分析ができないでいるのである。
<5>民訴法二二二条四号で文書提出義務が一般義務化されているのは本件のような事案で、当事者の武器対等を図り、真実発見を求めるために制定されたものと思われる。
<6>回路図等の提出を決定すべきである。
三(一)被控訴人は乙第八号証のもとになる控訴人由紀子が署名、捺印した文書について修理費内訳書並びに物品納品書受領書等は存在しないとしている。
(二)しかし、被控訴人の社員は控訴人由紀子の故障申告により控訴人宅を訪問したときは、常に文書に対し署名、捺印を求めている。
単に、物品を納品したときや修理費の支払をした時だけではない。
(三)また、被控訴人の社員は乙第八号証の5乃至8のために控訴人宅に苦情対応のために来たことを示す文書に対し、控訴人由紀子の署名、捺印をさせている。
(四)被控訴人の主張は明らかに偽りと思われる。
別紙(三)
一、訴外平山剛との「取次店契約書」の提出ついて
1.被控訴人は、平成一一年二月一九日付準備書面において、右文書については提出の必要性がないと主張する。
その論拠は、結局のところ、被控訴人の手元にある乙第二号証(割賦販売契約書)の存在と、証人渡辺和朗の供述により、売主が誰か、及び民法第一〇〇条の適用問題については立証十分であるというに尽きる。
2.しかし、控訴人が平成一〇年七月一七日付準備書面で詳述したように、渡辺証言は矛盾や不明瞭な部分が多く存在し、信用性に乏しいのである。
しかも、現実に、本件契約締結において、控訴人西垣由紀子に直接面談した者は被控訴人の言う平山剛だけである。
被控訴人は、平山について「訴外リース会社の割賦販売手続を代行している被控訴人の『使者』として書類関係の媒介をしているに過ぎず」と述べる。しかし、平山は、単に書類を届けに行った者ではない。むしろ、契約そのものの勧誘を行い、契約内容を控訴人に説明した本人である。被控訴人の手元にある書類の内容が問題なのではなく、現実に勧誘と契約手続行為を行った者がどのような説明をしたのかが、最も重要であることは当然である。
とりわけ消費者契約においては、契約時に事業者の説明義務や文書交付義務が問題となることが多く、その問題点はまさに具体的説明の内容を判断することにより、その義務を尽くしたか否かが判断される。平山は、被控訴人と訴外リース会社の区別やその契約関係について認識を持たず、全て被控訴人会社だけが当事者と思っていたことは十分可能性がある。そして、平山が控訴人にもそのように説明していたとすれば、被控訴人の主張は否定されることになるのである。
3.本件訴訟になるまで控訴人由紀子は、平山剛、なる名前を知らず、被控訴人の社員渡辺から勧誘を受けたと思っていた。被控訴人はその準備書面で、平山も自分の名刺を持っており、「担当」の表示は「自分以外の者」を表示したことが明らかと述べる。しかし、平山が名刺を持っていたとの証拠は全く存在しないし、むしろ、渡辺証言(調書一八丁)では「直接名刺等を渡しておりましたら特約店の方に連絡が入るんじゃないかと思います」と述べる。つまり、パンフレットに連絡先として渡辺の名前と電話番号を書いてあるということは、平山は、名刺を持っていなかったし、少なくとも控訴人に交付していなかったことが推認されるのである。
4.いずれにしても被控訴人がこの契約書の提出をこれほど頑なに拒むのは、それを提出することにより渡辺証言の矛盾点や不明瞭さと相俟って、被控訴人の特約店契約や特約店に対する指導等の杜撰さが明白となり、被控訴人のこれまでの主張の信用性を失わせるからではないかと推測されるのである。
二、本件機器類の「回路図並びに信号流れ図」(以下回路図等という)の提出について
1.被控訴人は回路図等について、民訴法二二〇条四号ハ(自己使用文書)、ロ(職業上、営業上の秘密文書)に該当するとする。
2.しかし民訴法二二〇条四号は、文書提出命令が訴訟上の情報収集方法として重要な機能を果たしていること、並びに控訴人・被控訴人間の情報利用の機会均等をはかるため、一般的文書提出義務を認めたものである。
本来、民訴法二二〇条四号イ乃至ハの提出拒絶事由は、一般的文書提出義務の例外として文書が提出されないことにより、訴訟資料が制約を受けてもやむ得ないと考えられる場合である。文書の提出による真実発見の利益に優越する法益が存する場合を列挙したものであり、同イは自己負罪拒絶特権、同ロは職業上・営業上の守秘義務、同ハは情報プライバシー権と考えられている。
3.ところで、本件回路図等は、すでに一〇年以上も以前に作成され、それをもとにした本件機器類も、一〇年以上も以前から販売されている。各電話機メーカーは被控訴人から右回路図等を得たり、費用と時間を掛けて本件機器類から回路図等を分析して、新たな種々の電話機器を販売している。本件回路図等は、電話機器メーカーに電話機器を販売委託する際には、開示することになっているのである。
また、本件回路図等が作成された当時においては、企業秘密としての重要性をもっていたとしても、現代のような日進月歩の技術社会において、一〇年以上も以前の図面に、被控訴人が主張するような技術情報・財産的情報が残存していることはありえない。例えば、実用新案について六年間の保護しか与えられていないのは、右の事情による。
そのうえ、本件回路図等は、あくまで電話機器を作成する一過程の一部分でしかないのであり、右の情報公開が被控訴人にとって真実発見を妨げてもよいほどの法益を有していることはない。
これに対し控訴人は、被控訴人に対し資力・能力において圧倒的に劣る、専門知識を有しない一個人である。本件機器類から、費用と時間をかけ、本件機器類の瑕疵を確認するのは非常な困難を伴なうのであり、両者の比較衝量において、本件回路図等を提出すべきである。
4.なお被控訴人は、例えとして、料理店で料理を注文する場合に、注文して自由に食することができる料理とその調理方法を記載した文書とは異なることを述べているが、その例えは、料理の味は時間の経過にかかわらず、いつの時点でも保護すべき法益があるのに対し、本件機器類は時間の経過によって保護すべき法益が存在しなくなる点だけでも不適切と思われるが、その料理を食した者が食中毒をおこし、欠陥ある商品として主張されている場合でも、調理人は材料をも開示しないのだろうか。被控訴人において、頑なに情報を開示しないことは、本件機器類の片通話の原因について、控訴人の主張が的を得ているからだと思われる。
三、民訴法二二三条三項(いわゆるインカメラ手続)の申立
1.控訴人と被控訴人との間では、本件回路図等について民訴法二二〇条四号ロ、ハに該当するか争いがある。
2.控訴人は、民訴法二二〇条四号ロ、ハは、一般的文書提出義務の例外として規定されたものであり、制限的に解釈すべきであるし、本件回路図等は被控訴人が主張するように、技術情報・財産的情報が詰まっているものではないと判断している。
これに対し、被控訴人は、本件回路図等は専ら内部の者の利用に供するものであり、また技術上の秘密等が記載されていると反論している。
3.裁判所において、民訴法二二三条三項に従い、本件回路図等が同法四号ロ、ハに該当するか、インカメラ手続において判断して頂きたい。
別紙(四)
第一 平成一〇年一一月二日付控訴人の準備書面について
一 訴外平山剛との「取次店契約書」について
1 右文章提出の必要性が認められない。
2 控訴人は、本件機器類の「売主」が被控訴人かどうかが争いになっているとするが、そもそも、本件は、控訴人が割賦販売契約を利用して電話機を購入されたということであり、その場合、売主は割賦販売業者(リース販売業者)になるということに過ぎない。
本件割賦販売契約の申込会社(すなわち「売主」)が訴外エヌ・ティ・ティ・リース株式会社(以下「訴外リース会社」という。)であることは、割賦販売契約書(乙第二号証)に明示されているところである。
同割賦販売契約書に申込会社(「売主」)が明示されている型の契約であり、売主が明示された同契約書を示して契約をしているのであるから、顕名主義にも何ら反しない。
訴外平山剛は、訴外リース会社の割賦販売手続を代行している被控訴人の「使者」として書類関係の媒介をしているに過ぎず、割賦販売契約の形態となっている本件機器類の売買契約は、控訴人の書面(割賦販売契約書)による申込みを受け、被控訴人の担当社員であった証人渡辺和朗において、直接控訴人宅へ電話連絡のうえ、割賦販売の条件(支払回数)等を確認し、契約書を完成して、同契約書(控え)の郵送により交付して行っており(同証人の尋問調書の一六丁表一一行目から同丁裏三行目。同三二丁裏一〇行目から三三丁表二行目)、当該事実関係のもので割賦販売契約上の売主が訴外リース会社であると原判決でも認定されているものである。
割賦販売契約書に控訴人西垣由紀子の署名があり、訴外平山剛は、その契約書を「示して」割賦販売の申込みを受けたと認められるし、後の完成した契約書の郵送等は当該手続を代行した被控訴人において行われ、訴外平山剛は関わっていない。当該事実関係一切は、既に証人渡辺和朗の尋問等により十分立証済みである。
3 ところで本件では、控訴人が、パンフレット(甲第一号証の一番最後ページ)に記入された証人渡辺の氏名と連絡先を持ち出して、あたかも勧誘に来た者(訴外平山剛)が被控訴人会社の社員である同渡辺であると名乗り、表示した、と誤った主張をしていることがそもそも問題なものである。
しかし、この点について、証人渡辺和朗がいみじくも証言しているとおり、取次店として勧誘に行っている平山自身が外に出歩いていて連絡が取り難いかも知れないということで、契約に関する連絡先として、契約関係を取り扱っている証人渡辺を記載して渡したものと見られ(同証人尋問調書の一七丁裏八丁目から一八丁表三行)、本来的に名刺をもっているNTTの社員等(訴外平山についてもしかりである。)がパンフレットの裏に自分を表示するためにこの様な記載をして渡すことはなく、第一、その当人が自分自身を表示するのに「担当・・」と言うようには記載して渡さないことからも控訴人の主張が誤りであることは明らかである(「担当・・」との記載は、担当がこれこれの者です、という趣旨の記載で、すなわち自分「以外の者」を表示したものであることは、その記載から容易に伺われる。)。
逆に、契約書の送付に関しては、現実に証人渡辺が工事希望日や契約条件(分割回数等)の確認を電話でしており、同人の連絡先もそのパンフレットの記載から当然控訴人が分かっていたのに、当時、契約書が届いていないなどの連絡や申出など控訴人から一切なかったことが指摘されるべきである。
4 顕名主義により、契約書上売主が表示されている型の契約であるにも関わらず、控訴人が、勧誘した者が、被控訴人の社員を名乗ったとか(パンフレットの記載上、到底そのようには証拠上認められない。)、契約書に署名した記億がない(但し、それが控訴人西垣由紀子の署名であることは争いになっていない。)、契約書を受け取っていない、等と誤った主張をしていることがそもそも問題なのであって、売主が誰かの争点は既に従前の証拠関係で十分立証が尽くされており、本件割賦販売契約自体とは無関係な訴外第三者との取次店契約書の提出の必要は認められない。
二 本件機器類の「回路図並びに信号流れ図」について
1 「回路図並びに信号流れ図」(以下「回路図等」という。)は、民事訴訟法二二〇条四号のハの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(内部文書、自己使用文書)に該当する。
(一) 控訴人は、「自己使用分書」は単なる内部文書とは異なるとし、同文書を提出命令の対象から除いた保護法益は、営業秘密ではなく、プライバシーにあると主張する。
しかしながら、民事訴訟法二二〇条四号のハの文書が文書提出義務の対象文書から除外されたのは、およそ外部のものに開示することを予定していない文書についてまで文章提出義務が一般的に課せられると、裁判所から提出を命じられるという事態を常に想定して文書を作成しなければらならなくなるためであり、その理由は単にプライバシーの保護に尽きるものではない。また、ある事実について証人として証言する場合と、文書そのものを提出する場合を比べると、文書提出の場合、裁判所の命令により提出が強制されるとするならば、文書に記載された一切がっさいが明らかになってしまい、およそ外部のものに開示することが予定されていない様な内容が記載された文書の所持者が著しく不利益を受けるおそれがあるからである。
従って、当該文書が同号の「自己使用文書」に該当するか否かは、文書の記載内容や、それが作成され現在の所持者が所持するに至った経緯・理由等の事情を総合的に考慮したうえで、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され外部の関係のない者に見せることが予定されていない文書かどうかによって決すべきである。
そして、プライバシーが問題になるケースに限らず、およそ営業秘密等が記載され、外部の者に見せることが予定されていない文書も対象になっていることも明らかである。
ところで、本件回路図等は、本件機器類を製造し、細部設計を行ったメーカーが本件機器類を製造するために作成した文書であって、およそ本件機器類のユーザーを含め関係のない者に見せることを全く予定せず作成された文書である。
しかも、回路図そのものを文書として提出が強制されると、控訴人が欠陥や瑕疵が存在すると主張している内容に限らず、それと直接何の関係もない、永年の開発により培ってきた回路関係の技術上の秘密ならび財産上情報が記載された部分も一切がっさい提出を強制されることになり、文書の所持者は著しく不利益を受けることになる。
専ら文書の所持者の利用に供するために作成された文書であり(どの様に解釈しても、文書の所持者以外の者の利用に供されたり、開示されることを予定して作成された様な文書とは解されない。)、従って、回路図等の文書は、民事訴訟法二二〇条四号のハの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当することは明白である。
(二) この点、控訴人は、<1>費用と時間をかければ本件機器類自体から回路関係、信号流れ関係は解明できるものであるから、回路図等が民事訴訟法二二〇条四号のハの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」該当しない、あるいは<2>被控訴人が回路図によって製品化された本件機器類を広く一般に販売して利益を得ていることから、回路図等は自己使用文書に該当しない、と主張する。
しかしながら、<1>費用と時間をかければ本件機器類自体から回路関係、信号流れ図関係が解明できるから、当該回路図が自己使用文書にあたらないとは言えない。
すなわち、販売しているその機械自体と、その作成の基になっている文書である回路図(設計図)とはあくまでも別のものである。
機械を製造して販売している会社は、機械を販売しているからと言って、その回路図まで同じようにユーザーに販売して、明らかにしている分けではない。技術情報、財産的情報(ノウハウ)が詰まっているその回路図等は、あくまでもそのメーカーの自己使用のための文書であり、機械の販売により、回路図まで公にしている分けではなく、控訴人の主張は認められない。
また、時間と費用をかければ本件機器類からその内容が分かるから自己使用文書ではないとの主張は、存在しているその文書自体はやはり作成者、所持者の利用に供するためのものであるから、到底採用し得ないところであり、本件機器類からその回路関係や信号流れ図が解明されるから秘密や技術的情報が記載された文書ではなく、保護に値しないとの論理であれば、全くの筋違いである。
本件の様な電気機器について、当該機器類自体からその内容を明らかにするのには、それなりの技術と知識を持った人が、それなりの手順を講じてしなければ明らかに出来ないということになるが、そうであるからこそ秘密とか財産的情報と言えるのであって、法律等で秘密の暴露が禁止されていなければ、秘密でないということではない。秘密とは、一般に公にされないことに相当の利益があることであり、正に設計図や回路図等がそれにあたることは明らかである。
そもそも、被控訴人が主張しているのは、本件機器類に控訴人主張の事象が発生し、それに本当に瑕疵、欠陥が存在するというのであれば、その瑕疵、欠陥が存在する本件機器類自体から明らかに出来るであろうと主張しているのであって(しかも、被控訴人が言っているのは、接続したら異常が発生するというなら、接続して使用して見たら明らかになるであろうことなのに、何でそんな簡単なこともしないのか、という趣旨のことである。)、回路図や信号流れ図を解明せよとか、解明できる等と主張しているものではない(第一、その物自体(異常を含めて)を見ないのに、如何にして、他に欠陥騒ぎも発生していない同機種につき回路図等を明らかにしたり、解明されなければならないのであろうか。)。
また、<2>についても、被控訴人が販売しているのは、本件機器類そのものであり
回路図等を広く一般に頒布し、販売している分けではない。回路図と本件機器類はまったく別個のものである。
例えば、料理店で料理を注文する場合を想定すると、一般に誰でも料理を注文して自由に食することが可能な料理であったとしても、その調理方法を記載した文書まで誰もが閲覧できるわけでは決してない。
そうした文書までもが文書提出義務の対象になるとすると、いつ如何なる拍子で文書提出義務を課せられて広く世間一般に流出してしまうか分からず、およそこの世に技術情報やノウハウといった事柄は存在し得なくなると言うべきである。
(三) 回路図等は、民訴第二二二条四号ハの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当し、被控訴人に同文書の提出義務は認められない。
2 さらに、本件機器類の回路図等は、民訴第二二二条四号ロ(黙秘権の認められる技術、職業の秘密に関する文書)にも該当する。
(一) 電話機等の機器類に関し、どこに、どのような部品を使用するか等は、永年その企業(メーカー)が培ってきた技術的なノウハウ(財産的情報)並びに企業秘密の結晶であることは明らかである。
(二) 控訴人は、本件機器類を調査、分析することにより回路図等の関係を証明できるから、本件機器類の回路図等は一般に広められ、技術的な秘密、あるいは企業秘密が含まれているものではない、と主張するが、到底採用出来ないところである。
前記の通り、製造し販売しているその機械自体と、その作成の基になっている文書である回路図(設計図)とはあくまでも別のものである。
機械を製造して販売している会社は、機械を販売しているからと言って、その回路図まで同じようにユーザーに販売して、明らかにしている分けではない。技術情報、財産的情報(ノウハウ)が詰まっているその回路図等は、あくまでもそのメーカーのための文書であり、機械の販売により、回路図まで公にしている分けではない。
時間と費用をかければ本件機器類からその内容が分かるから秘密やノウハウではないとの主張も採用できない。当該機器類自体からその内容を明らかにするのには、それなりの技術と知識を持った人が、それなりの手順を講じてしなければ明らかに出来ないということになるが、そうであろうからこそ秘密とか財産的情報と言えるのであり、秘密でないなどとは到底言えない(例えば、「暗号」なども秘密の最たるものであるが、時間、費用をかければいずれは解明されるから秘密ではないと言えるかと言えば、そうではないことは明らかである。)。
一般に公にされないことに相当の利益があることであり、正に回路図等やその設計の基になっている仕様書が、秘密や技術情報が記載されたそのような文書にあたることは明らかである。
(三) なお、控訴人は、通信機器に関するメーカー、組織並びに施設などは全てといっていいほど被控訴人と直接間接に関わりがあり、被控訴人に対する遠慮等から協力を得られない状況になっているから、本件機器類自体だけからは本件機器類の瑕疵は証明できないと主張されるが、到底そのような状況になっているとは認めれず、協力が得られないメーカーとはどれほどなのかをまず明らかにされるべきであろう。
そもそも、FAXや電話機など各社が技術を競って競争しているものであり、被控訴人に遠慮等があるからということをメーカーが欠陥の解明に協力できないことの理由としている様にも思えない(むしろ、本件機器類に、欠陥や瑕疵など存在するようには到底思われないから、そのような空虚なことにきちんとしたところは協力出来ない、ということではなかろうか。)。
そして、回路図があれば、そのようなメーカーでも欠陥の解明に協力されるということであれば、むしろ、メーカー各社が技術を競っているところに、技術情報が詰まった本件機器類の回路図等が欠陥の解明ということを口実に持ち込まれることになるのであって、そのような文書の提出義務が除外されている趣旨に反する結果になることは明らかである。
(四) 本件の回路図等は、民訴第二二二条四号ロの「黙秘権(証言拒絶)が認められる技術、職業の秘密に関する文書」にも該当し、被控訴人についても同文書提出義務は認められないというべきである。
3 文書提出の必要性の不存在について
(一) 控訴人は、文書提出の必要性に対する反論として、<3>本件機器類に異常が生じていないとの被控訴人の主張に対して、平成七年一月二三日午前一一時頃に通話異常が発生し、翌日二四日午前一一時に被控訴人代理人に故障の申し出を行ったところ、被控訴人から局内部での故障が生じた、迷惑をかけたとの連絡があり、復旧したとの事実を持ち出されている。
しかし、それは控訴人も記載している通り、本件機器類の瑕疵や欠陥ないし故障とはまったく無関係な被控訴人の局内部の交換機内の断線であったものであり(NTTに直に故障の申告をされても局内の断線であるからその原因や復旧も直ぐ出来るところであるが、係争中であったことから控訴人代理人から被控訴人代理人宛に連絡があったものであり、連絡を受けた被控訴人がたちどころに原因を特定して復旧している。)、本件機器類の異常や欠陥等と主張しているものとは全く無関係である(なお、この点の控訴人の不信を解くため、被控訴人代理人は、わざわざ交換機内の断線したジャンパー線とはどういう物なのかを説明するために、当該部品を裁判所に持参して控訴人代理人に説明している。)。
さらに、本件機器類をすべてセットした後の平成九年一〇月四日以降、通話不能状態が発生したと主張するが、それは本件機器類購入後、すでに八年もの間、毎日十二分にご利用、ご活用された後のことであり、当然その機器内の部品というものの寿命があるところ、控訴人が被控訴人を信用出来ないとして、修理せずに放置しているということに他ならず、本件機器類の欠陥や、瑕疵などではなく、そのような購入後八年も経過した後の故障等の事実を持ち出されても、回路図等の提出の必要性が基礎づけられるわけではない(なお、メーカの部品保存期間も、部品によって異なるが、概ね七年と思われ、とっくに保証期間を過ぎている。)。
(二) さらに、控訴人は、本件機器類の瑕疵を証明するために、被控訴人とつながりから名前を出せないと言う大手メーカーの技術者に協力を求めているが回路図がないために本件機器類の調査、分析が出来ないでいると主張される。
しかし、本件機器類に本当に瑕疵や欠陥があるのであれば、その瑕疵のあるその商品を改善して一層良いものにするためにも被控訴人も大いに関心があるところであり、その技術者は遠慮なく名前を明らかにして大いに協力頂きたいところである。
被控訴人に対する遠慮から、名前が出せないとか、協力できないなどというのは理由にならないし(むしろ、本件機器類に欠陥や瑕疵など存在するようには到底思われないから、そのような空虚なことに協力出来ない、ということではなかろうか。)、名前も明らかにされず、どこのメーカーのものかもわからないものに、本来提出義務の認められない内部文書で、企業秘密や財産的情報(ノウハウ)が詰まった本件機器類の回路図等を、瑕疵の解明を理由に持ち込まれ、流用されるということの方が一層法の趣旨に反する結果になることは明らかである。
(三) 控訴人らの主張するように料金ユニットを接続して使用して異常が発生するかどうかを、機器を実際に接続して使用して最も端的に控訴人らにおいて出来る確認作業もすることもなく、徒に被控訴人に対する回路図等の提出のみを求めて長期の訴訟を遂行したうえ、前記の通り正規に接続して使用後も異常が発生せず、片通話も確認されてもいないのに、なおも本件機器類に控訴人ら主張の瑕疵乃至欠陥があるとの(思いこみによる)主張にこだわり、被控訴人に対して回路図等の提出を求めるものであり、およそ当該文書の提出の必要性があるとは認められない。
三 乙第八号証「故障履歴」のもとになる控訴人西垣由紀子が署名・捺印した修理費内訳書並びに物品納品書兼受領書について
既に提出している乙第五号証(修理費内訳書)、同第四号証(物品納品書兼領収書)以外に、そのような文書は存在しない。
控訴人は、被控訴人によるクレーム対応についてまで控訴人西垣由紀子が署名・捺印した修理費内訳書など存在するとして、被控訴人の主張が明らかな虚偽であると言われるが、何を持ってそのような主張をされるのか、まったく不可解というほかない。